苫小牧はじめて物語

小林 正俊

(こばやし まさとし)

2019年3月31日公開

小林 正俊

『手書きの新聞広告』より

明治23年

小林慶義けいぎ(正俊の祖父)秋田から小樽に移住する

明治31年

慶義、長男の幸蔵と菓子店を始める

明治42年

慶義、小樽の店を幸蔵にまかせ苫小牧に移住する

明治45年

慶義、次男の俊二(正俊の父)を
呼び寄せ駅前に「小林三星堂さんせいどう」を
開店する

大正元年12月30日

正俊 小樽で生まれる
苫小牧の尋常高等小学校高等科卒業
上京し、菓子とパンの修行に励む

昭和18年

軍需乾パン工場長として帯広へ赴任

昭和27年

「おやつの店三星みつぼしキャンディーセンター」開店

昭和28年

「よいとまけ」発売

昭和31年

父俊二の急逝に遭い、段階を経て全部門を継承

昭和38年

苫小牧市糸井に土地をもとめ、工場建設に着手する

昭和39年1月1日

三星の組織を株式会社に改め、初代代表取締役に就任する糸井工場落成(3月)

昭和41年2月19日

正俊逝去、行年53歳

三星の始まり(創業)

三星の歴史は明治31年、秋田県出身の正俊の祖父小林慶義が、小樽で「小林三星堂」を開業したところから始まる。三星の屋号は、創業者である慶義が小樽でジョージ・P・ピアソン牧師からパンの作り方を学んだ頃、教会の方々が「信仰・希望・愛」を表す三つの星と名付けてくれた、と伝わっている。  「小林三星堂」の商売は軌道に乗り、慶義は秋田から弟の末松を呼び寄せる。その末松の二男が、『蟹工船』で知られる小樽が生んだ作家小林多喜二である。多喜二は、伯父慶義の援助を受けて道庁立小樽商業学校に入学、慶義の家に住み込みパン工場の手伝いをしながら通学した。
三星の歴史は明治31年、秋田県出身の正俊の祖父小林慶義が、小樽で「小林三星堂」を開業したところから始まる。三星の屋号は、創業者である慶義が小樽でジョージ・P・ピアソン牧師からパンの作り方を学んだ頃、教会の方々が「信仰・希望・愛」を表す三つの星と名付けてくれた、と伝わっている。  「小林三星堂」の商売は軌道に乗り、慶義は秋田から弟の末松を呼び寄せる。その末松の二男が、『蟹工船』で知られる小樽が生んだ作家小林多喜二である。多喜二は、伯父慶義の援助を受けて道庁立小樽商業学校に入学、慶義の家に住み込みパン工場の手伝いをしながら通学した。

おやつの店三星キャンデーセンター

俊二の長男小林正俊は、大正元年小樽で生まれた。小学生のころから店員に混じって荷車を引き、あるいは荷物を背負ってパンを売り歩いた。尋常小学校の高等科を卒業後、家業を継ぐために上京し、菓子とパン作りの修業に励んだ。戦時中は軍需乾パン工場長として帯広に赴任、終戦とともに苫小牧に帰郷して家業に携わった。 人手をかけずに大量に売ることができればお客様に安い価格で菓子を提供できると考え、駅前の本店に「おやつの店三星キャンデーセンター」を併設した。正俊は折り込みちらしを新聞に毎日のように入れた。 三星の元社員である白石幸男氏は著書『手書きの新聞広告』に、“毎日のようにちらしを入れるということは、毎日お客様にお知らせしたいことが出来た、毎日新しい何かが始まった、ということだ。この活気はハンパなものではなかった。”と記している。  
俊二の長男小林正俊は、大正元年小樽で生まれた。小学生のころから店員に混じって荷車を引き、あるいは荷物を背負ってパンを売り歩いた。尋常小学校の高等科を卒業後、家業を継ぐために上京し、菓子とパン作りの修業に励んだ。戦時中は軍需乾パン工場長として帯広に赴任、終戦とともに苫小牧に帰郷して家業に携わった。 人手をかけずに大量に売ることができればお客様に安い価格で菓子を提供できると考え、駅前の本店に「おやつの店三星キャンデーセンター」を併設した。正俊は折り込みちらしを新聞に毎日のように入れた。 三星の元社員である白石幸男氏は著書『手書きの新聞広告』に、“毎日のようにちらしを入れるということは、毎日お客様にお知らせしたいことが出来た、毎日新しい何かが始まった、ということだ。この活気はハンパなものではなかった。”と記している。  

「よいとまけ」三星の看板の菓子

正俊が子どものころの苫小牧は、家を一歩出ればさえぎるものひとつない原野が広がっていた。子どもたち、そして、小鳥や動物たちも原野に実ったハスカップをつまんでいたころである。 白石幸男氏は著書『手書きの新聞広告』に、“王子製紙からは、製紙原料の丸太を積みおろしする勇ましい掛け声が、聞こえて来る。夜明けから日没まで、休みなく続く「よいとまけ」の掛け声は、苫小牧の村人たちに朝が来たことを教え、日が暮れたことを伝えてくれた。 それはまた子どもたちの子守り歌でもあった。 「家に帰らなくちゃ」。少年は薄暗くなった空を見上げた。これが、小林正俊の、ふるさと苫小牧の原風景である。”と記している。 
正俊が子どものころの苫小牧は、家を一歩出ればさえぎるものひとつない原野が広がっていた。子どもたち、そして、小鳥や動物たちも原野に実ったハスカップをつまんでいたころである。 白石幸男氏は著書『手書きの新聞広告』に、“王子製紙からは、製紙原料の丸太を積みおろしする勇ましい掛け声が、聞こえて来る。夜明けから日没まで、休みなく続く「よいとまけ」の掛け声は、苫小牧の村人たちに朝が来たことを教え、日が暮れたことを伝えてくれた。 それはまた子どもたちの子守り歌でもあった。 「家に帰らなくちゃ」。少年は薄暗くなった空を見上げた。これが、小林正俊の、ふるさと苫小牧の原風景である。”と記している。 
勇払原野のハスカップを使った菓子をつくりたいという正俊の強い思いは、昭和28年長い年月の苦労を経て、三星の新しい歴史を造り出した。 銘菓「よいとまけ」の誕生だ。 「よいとまけ」はカステラにハスカップジャムを巻き込んであり、その外側をまたハスカップジャムが包み、全体がハスカップ色の菓子である。切るにしても、食べるにしても手がベタベタになるため、現在「日本一食べにくいお菓子」と愛情を込めて評されている。 「よいとまけ」は、原野のいたるところでたわわに実を結んでいたハスカップと、製紙原料の丸太を積み上げる力強い掛け声、苫小牧の地でなければ誕生し得なかった菓子である。
勇払原野のハスカップを使った菓子をつくりたいという正俊の強い思いは、昭和28年長い年月の苦労を経て、三星の新しい歴史を造り出した。 銘菓「よいとまけ」の誕生だ。 「よいとまけ」はカステラにハスカップジャムを巻き込んであり、その外側をまたハスカップジャムが包み、全体がハスカップ色の菓子である。切るにしても、食べるにしても手がベタベタになるため、現在「日本一食べにくいお菓子」と愛情を込めて評されている。 「よいとまけ」は、原野のいたるところでたわわに実を結んでいたハスカップと、製紙原料の丸太を積み上げる力強い掛け声、苫小牧の地でなければ誕生し得なかった菓子である。

三星、株式会社へ

昭和39年、正俊は三星の組織を株式会社に改め、初代の代表取締役社長に就任する。同年3月には糸井工場が落成。当時、国道沿いには家もなく、工場に電話が引かれたのは翌年の春である。駅前本店の工場の跡地は喫茶などに改装され、市民や通学の学生たちでいつも賑わっていた。 正俊は、三つの星で表した三星のマークを「仕事に惚れ、郷土に惚れ、女房に惚れる」の「三惚れマーク」と呼んでいた。菓子とパンによって世のため人のために働くこと、菓子づくりこそが天職と語っていた。 昭和41年、今日の三星の礎を築いた初代社長小林正俊は53歳で急逝する。正俊が好んだ言葉は、“一隅を照らす、これ則ち国宝なり”最澄の『山家学生式』にある言葉である。 葬儀は正俊が愛した駅前の本店で執り行われ、1500人の市民が参列した。この時にも苫小牧民報には「お知らせ」として“小林正俊葬儀のため本店は休業させていただきます”という手書きの広告が入れられていた。
昭和39年、正俊は三星の組織を株式会社に改め、初代の代表取締役社長に就任する。同年3月には糸井工場が落成。当時、国道沿いには家もなく、工場に電話が引かれたのは翌年の春である。駅前本店の工場の跡地は喫茶などに改装され、市民や通学の学生たちでいつも賑わっていた。 正俊は、三つの星で表した三星のマークを「仕事に惚れ、郷土に惚れ、女房に惚れる」の「三惚れマーク」と呼んでいた。菓子とパンによって世のため人のために働くこと、菓子づくりこそが天職と語っていた。 昭和41年、今日の三星の礎を築いた初代社長小林正俊は53歳で急逝する。正俊が好んだ言葉は、“一隅を照らす、これ則ち国宝なり”最澄の『山家学生式』にある言葉である。 葬儀は正俊が愛した駅前の本店で執り行われ、1500人の市民が参列した。この時にも苫小牧民報には「お知らせ」として“小林正俊葬儀のため本店は休業させていただきます”という手書きの広告が入れられていた。

<参考資料>

  • 「手書きの新聞広告」白石幸男/著 株式会社三星 1993
  • 「郷土の研究10」苫小牧郷土文化研究会 2016
  • 「ゆうふる創刊号」(2004年夏号) 一耕社 2004
  • 「日本の仏典1」田村晃祐/著 筑摩書房 1987
  • 「小樽 小林多喜二を歩く」小林多喜二祭実行委員会/著 新日本出版 2003
  • 「とまこまい続昔絵本」能登正智/著 苫小牧郷土文化研究会 1985
  • 「王子製紙苫小牧工場創業100年のあゆみ」王子製紙苫小牧工場 2010

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